人気ブログランキング | 話題のタグを見る

鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造

ここでは韓国の伝統建築の構造を理解するために、韓国に現存する最古の木造建築である「鳳停寺極楽殿(ポンジョンサ・クンナクジョン)」を建ててみようと思います。


■1.基壇・礎石・柱
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_093953.jpg
まず切石を積んで「基壇」という高台を築き、その上に柱の足場となる「礎石」を配置します。 これらは建物の下部、特に柱の足元を地上の湿気から守り、建物を長持ちさせるための工夫で、韓国の伝統建築では必須のものです。 礎石の上に設置する柱は建物の正面方向に4本、側面方向に5本。 柱の間を数えて「正面3間・側面4間の建物」と記述されます。 礎石の上に置かれる柱は安定して自立できないので、柱の頭を穿って「椙枋(チャンバン、日本名:頭貫)」という部材を挿入し、柱を繋いで安定させます。 十分な空間を確保する為に、内部の4本の柱を省略しましょう。

さて、問題は柱から上の構造、「架構」です。 韓国建築の大原則は、屋根の荷重をまず「道理(ドリ、日本名:桁)」という正面方向の水平材で受け、それを側面方向の水平材「(ボ)」で支えて、柱に荷重を落とすという物です。 道理は一定間隔で外側から順に高い位置に置かれる必要があるので、この道理を置く足場をどのように作り出すかが架構の課題になります。


■2.拱包(コンポ)と台工(デコン)
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_061861.jpg
まずは、柱の支点を広げましょう。 柱の上に「柱頭(ジュドゥ、日本名:大斗)」という箱型の部材を置き、そこに水平材の「檐遮(チョムチャ、正面方向の肘木)」と「山彌(サルミ、側面方向の肘木)」を嵌め込み、その上に更に小さな箱型の「小櫨(ソロ、日本名:斗)」を置く。 この構造をまとめて拱包(コンポ、日本名:組物)と呼びます。 木材は一点に集中する荷重に弱いので、拱包を用いて水平材との接触面を広げ、荷重を分散させる必要があるのです。 また、拱包の届かない場所でも水平材を支えてやるために、「台工(デコン、日本名:蟇股)」を椙枋の上に置きます。

鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_0194042.jpg
小櫨(ソロ)の上に重ねて檐遮(チョムチャ)・山彌(サルミ)を置くことで、拱包(コンポ)を拡張します。 軒先を支える一番外側の道理=出目道理(チュルモクドリ)を何段目の山彌で支えるかによって、「1出目(チュルモク)」、「2出目」、「3出目」…と呼ばれ、建物の規模に従って選択されますが、鳳停寺極楽殿は「2出目」まで。 従って最も外側の道理は、この2段目の山彌に乗ることになります。 同時に、檐遮・山彌を伸ばして隣接する拱包と接続します。 拱包同士の連絡を密にすることで、構造をより強固にするためです。


■3.大梁(デドゥルボ)を渡す
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_0442212.jpg
拱包(コンポ)で作った足場の上に、大梁(デドゥルボ)を乗せます。 大梁は建物内部を覆う屋根を支える構造の足場となり、荷重を柱へと伝える最も重要な部材です。 大梁を長くしすぎると荷重のモーメントが大きくなり過ぎて撓んでしまうので、ここでは省略できる柱は2本が限界だったわけです。 また前から4列目の4本の柱は、やはり檐遮(チョムチャ)を延ばして連結し、上部構造の足場とします。 そして2出目まで外側に伸ばした壁面の拱包の先端には、道理を置く台となる長舌(ジャンヒョ)を乗せましょう。 これでまず最も外側の道理、出目道理(チュルモクドリ)の足場が完成です。


■4.前後対称な足場の完成
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_0552568.jpg
前から2列目の柱は2本省略されていますが、4列目と同様に道理(ドリ)を受ける部材の足場を作らなければなりません。 そこで、両端の拱包(コンポ)を長い檐遮(チョムチャ)で接続して足場とし、これを大梁(デドゥルボ)に支えて貰うことにします。 4列目の柱は既に一段下で檐遮によって連絡されているので、その上に拱包を置いて2列目と高さを揃えます。 また大梁の中央には台工(デコン)を2個ずつ設置して、上部構造の足場とします。 一方、1列目・5列目の柱筋上には、道理を乗せる為の長舌(ジャンヒョ)を置きます。 これで外側の柱列上の道理、柱心道理(ジュシムドリ)の足場も完成。


■5.宗梁(ジョンボ)を渡す
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_1182274.jpg
2列目・4列目の柱筋には、これまでに作った足場の上に長舌(ジャンヒョ)を置き、これで中道理(ジュンドリ)の足場も完成。 そして大梁(デドゥルボ)に乗せた台工(デコン)の上に「トゥンボ」を置き、その上に「宗梁(ジョンボ)」を乗せて、二重梁の構造ができます。 宗梁は、最も高い3列目柱筋の道理、「宗道理(ジョンドリ)」を支える足場となります。 同時に、宗道理の負担を軽減するため、宗梁の両端に檐遮を挿し込んで拱包を作り、これを足場にして2.5列目、3.5列目にも道理を置くことにしましょう。


■6.宗道理の足場の完成
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_118377.jpg
宗梁(ジョンボ)の中央には、まず台工(デコン)を置き、柱頭(ジュドゥ)の乗る両側面の柱と高さをあわせます。 そしてその上に長い檐遮(チョムチャ)を渡し、この上に長舌(ジャンヒョ)を置く。 同様に、宗梁の両端には、先ほど組んだ拱包の上に長舌を置きます。 こうして、3列目の宗道理(ジョンドリ)、2.5列目・3.5列目の「中上道理(ジュンサンドリ)」の足場が完成し、9本の道理全てを設置する用意が整ったことになります。


■7.道理の設置
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_1332856.jpg
というわけで、道理を置きましょう。 外側から順に、拱包2出目の「出目道理(チュルモクドリ)」、1・5列目柱筋の「柱心道理(ジュシムドリ)」、2・4列目柱筋の「中道理(ジュンドリ)」、2.5・3.5列目の「中上道理(ジュンサンドリ)」、そして中央3列目柱筋の「宗道理(ジョンドリ)。 計9本の道理のうち出目道理を除いて7本の道理を持つ「7梁架」の建物と記述されます。 更に、「ソスル」と呼ばれる曲線形の斜材で道理を連結し、これによって道理の横ズレを防ぐとともに、荷重を斜め方向に分散させましょう。


■椽木(ソッカレ)・浮椽(プヨン)を渡す
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_1442475.jpg
さて、後は屋根を乗せるだけです。 9本の道理を支点に椽木(ソッカレ、日本名:垂木)を渡し、椽木の先端に浮椽(プヨン、日本名:飛檐垂木)を付け足して軒を伸ばします。 更に、椽木の上に屋根板と屋根土を置き、最後に瓦を葺いて屋根の出来上がり。
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_3522679.jpg
以上で鳳停寺極楽殿、完成です。
鳳停寺極楽殿を建てる――韓国建築の構造_d0062208_2334933.jpg

鳳停寺極楽殿は一つの例ですが、非常にオーソドックスな形式で建てられているので、ここでの各部材が持っている役割を知っておくと、他の韓国建築を見ても全体の構造をイメージし易いと思います。 実際に韓国に行って古建築を見る機会があれば、こういう鑑賞によって韓国建築が持つ構造の美というものを感じて貰えると嬉しいです。

記事一覧へ


by chounamoul | 2009-07-26 00:49


<< 韓国建築の架構 軒と組物 >>