日本や韓国に残る伝統的な建物を見る時に、僕がそれらを鑑賞する方法は三つある。 一つは記念碑としての楽しみ方。 その建物にまつわる歴史を偲ぶこと。 一つは美術品な楽しみ方。 その建物の外観が持つ、幾何学的・装飾的な形態の美しさを味わうこと。 そして三つ目が工学的な楽しみ方。 その建物が持つ構造を探求することだ。
建物の周りや内部を巡りながら、梁や組物などの部材を観察して、個々の部材が全体の中でどのような意味を与えられ、どのように上からの力を受け、どのように下に伝えているか、そういう力のイメージを建物に重ねてみるとき、構造上の合理と非合理が際立って目に映るようになる。 奈良時代の日本建築や、中世の大仏様や純粋な禅宗様(つまり大陸から輸入されたばかりの様式)にはそういう工学的な意味での魅力があった。 しかし中世以降、日本の建物は野屋根を発達させて屋根を支える仕組みを天井裏の空間に隠すようになったため、建物全体の構造を把握して鑑賞することは難しくなった。 一方、韓国の建築は日本と異なり、その構造は、建物の美を構成するものとして鑑賞される役割を与えられてきた。 多くの建物においてその屋根裏の構造は露出され、あらゆる部材が構造上の役割と同時に視覚的な美を担って配置されている。 それは一面で架構の発展に対する制約として働いたのだろうけれど、韓国の古建築の中に入って上を見上げるとき、そこには確かに日本建築が失った面白さ、美しさがある。 そんな韓国建築の仕組みを伝えたくて、「鳳停寺極楽殿を建てる」と題して、韓国に現存する最古の木造建築を例に、その各部材の意味を説明してみた。 今回はこれに引き続き、その他の著名な韓国の建物の構造をいくつか紹介してみようと思う。 ●浮石寺(プソクサ)無量寿殿(ムリャンスジョン) この建物の特色の一つが、エンタシスをはじめとする様々な視覚効果の技法を施して纏め上げた外形の美しさにあることは「韓国建築の視点」で触れたが、一方で内部に露出された架構にも際立った構造美を見ることができる。 架構形式は大まかに言うと、前後の退間(トェカン)と中央間からなる側面3間にそれぞれ退梁(トェボ)、大梁(デドゥルボ)を渡し、大梁の上に宗梁(ジョンボ)を乗せる二重梁の架構を以って、11本の道理を支える「9梁架」の形式ですが、規模が大きいため多数のトゥンボを積み重ねることで高さを調節しています。 これらの各部材は鑑賞されることを意識してその形を整えられており、例えば梁はどれも凡そ円形の断面ですが、下から見上げた時に重苦しい印象を抱かせないように、上から約3分の1で最も太くなるような(上厚下狭)形になっています。 このように細やかな感性を以って彫刻された個々の部材を、一分の無駄もなく明快な構成として纏め上げ、心地よい緊張と力強い一体感を持つ架構美を実現した高麗人の手腕は、実に驚くべきだと思う。 ●修徳寺(スドクサ)大雄殿(テウンジョン) 注目すべきは虚檐遮(ホッチョムチャ)を用いている点で、従来の拱包は柱の上に置くだけのものだったが、虚檐遮は柱に穴を穿って拱包を挿し込むもの(日本でいう挿肘木)で、修徳寺大雄殿ではこれらを組み合わせてより強固な拱包を組み上げている。 また、斜め方向に隣接する道理を同時に支える曲線形の梁、「牛尾梁(ウミリャン)」が用いられ、これにより荷重を斜め方向にも分散させる。 個々の部材の加工は浮石寺無量寿殿から更に洗練を加え、台工(デコン)は装飾的な彫刻を施した「華盤(ファバン)」と呼ばれる形態へと発展している。 各所に配された華盤の細やかな曲線と、牛尾梁の緩やかな曲線、上厚下狭にかたどられた梁、そしてエンタシスの柱。 これらは力学的な合理性を以って組み合わされ、構造と形態の美が一体となった力強いデザインを生み出している。 韓国建築の最高傑作のひとつだろう。 ●鳳停寺(ポンジョンサ)大雄殿(テウンジョン) ●宗廟(チョンミョ) ●昌徳宮(チャンドックン)仁政殿(インチョンジョン) 参考文献 1 中西章『朝鮮半島の建築』(1989年理工学社)
by chounamoul
| 2009-08-02 00:56
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